タングステンの加工方法|特徴や用途、加工の注意点など紹介 | 株式会社タキオンワタナベ

コラム

タングステンの加工方法|特徴や用途、加工の注意点など紹介

2025年8月14日

タングステンは金属の中で最高の融点を持つ優秀な材料ですが、同時に加工が非常に困難な金属としても知られています。高い硬度と耐熱性により幅広い産業で活用される一方、加工には特別な技術と注意が必要です。

 

本記事では、タングステンの基本的な特徴から具体的な加工方法、注意点まで詳しく解説します。

 

タングステンとはどんな金属?

タングステンとはどんな金属?

タングステンは原子番号74、元素記号Wの金属で、レアメタルの一種です。スウェーデン語で「重い石」を意味する名前の通り、非常に重い金属として知られています。金属の中で最も高い融点3422℃を誇り、その優れた特性から工業分野や医療分野で幅広く活用されています。

 

特徴・性質

タングステンは他の金属にはない独特な性質を持っています。極めて高い融点と硬度、優れた電気抵抗、高い密度などが主な特徴です。ただし、硬度が高い反面、衝撃には弱いという特徴もあります。

 

高い耐熱性

タングステンの最大の特徴は、金属の中で最も高い融点3422℃を持つことです。熱膨張率も非常に低く、超高温下でも形状を維持できます。

 

熱処理炉や高温環境で使用される部品に適しており、2000℃を超える炉のヒーター材料としても有効です。温度変化による変形が少ないため、精密機器の部品としても重宝されています。

 

高い硬度

タングステンはモース硬度でダイヤモンドの10に次ぐ9にランクされる非常に硬い金属です。炭素と結合したタングステンカーバイド(WC)は特に硬度が高く、切削工具の材料として広く使用されています。

 

硬度が高いため摩耗しにくく、長期間使用できる工具や部品の製造に適しています。金型の摩耗しやすい部分にタングステンを使用することで、金型の寿命を大幅に延長できるのも特徴です。

 

電気抵抗

タングステンは金属の中では比較的大きな電気抵抗を持っているのが特徴です。電気を流すと発熱する性質があり、白熱電球のフィラメントや電子レンジのマグネトロンに使用されています。

 

高温での電気抵抗特性が安定しているため、高温環境での電気部品におすすめの金属です。ただし、LED電球の普及により、フィラメントとしての需要は減少傾向にあります。

 

衝撃には弱い

タングステンは硬度が高い反面、衝撃には非常に弱い性質があります。ハンマーなどで叩くと簡単に割れてしまうため、取り扱いには注意が必要です。

 

機械加工時や組み立て作業時には、急激な力を加えないよう細心の注意を払う必要があります。脆性が高いため、振動や衝撃が加わる環境での使用は避けるべきです。

 

用途

タングステンの優れた特性を活かして、さまざまな産業分野で活用されています。特に高温環境や精密な加工が必要な分野で重要な役割を果たしています。

 

自動車産業

自動車産業では、以下のようなエンジン部品やブレーキ部品の製造にタングステンが使用されています。耐摩耗性が高いため、長期間使用される部品に適しています。

 

用途カテゴリ 使用部品例 タングステンの特性
エンジン部品 バルブシート、ターボチャージャー部品 高温に強い
ブレーキ部品 ブレーキ関連パーツ(詳細記載なし) 耐摩耗性が高い
バランス調整用途 バランスウェイト 高密度を活かしたバランス調整が可能

 

医療機器

医療分野では、X線撮影装置や放射線治療装置の部品にタングステンが使用されています。放射線遮蔽能力が鉛より高く、環境負荷も少ないため、X線CTなどの医療機器に適しています。カテーテルの先端部分や血管内治療器具にも使用され、医療の精度向上に貢献している金属です。

 

電子機器

電子機器分野では、電極やフィラメント、真空管などにタングステンが使用されています。高い電気伝導性と耐熱性を活かし、ハロゲンランプや放射線装置の部品に適用されています。ジェットエンジンのタービンブレードや熱シールドなど、高温環境での使用にも対応可能です。

 

モリブデンとの違い

モリブデンとタングステンは共にレアメタルで、類似した特性を持っています。主な違いは加工性です。モリブデンは比較的加工しやすく、鉄鋼用添加剤や航空機用材料として幅広く使用されています。

 

一方、タングステンは加工が困難ですが、より高い融点と硬度を持ちます。用途に応じて適切な材料を選択することが重要です。

 

鉛との違い

鉛とタングステンは共に高い密度を持つ金属ですが、安全性に大きな違いがあります。鉛は人体に有害で環境負荷が大きいため、使用が制限されています。

 

タングステンは毒性がなく、環境に優しい材料として鉛の代替品として注目されているのです。放射線遮蔽能力も鉛より優れているため、医療機器や防護用品での使用が増加しています。

 

タングステンを使った合金の種類

タングステンを使った合金の種類

タングステンは単体での使用だけでなく、他の金属と組み合わせて合金として使用されることが多くあります。合金にすることで、タングステンの優れた特性を活かしながら、加工性や機械的性質を改善できます。

 

ヘビーメタル

ヘビーメタルは、タングステンを主成分とする高密度合金です。ニッケルや鉄、銅などを添加することで、純タングステンよりも加工しやすくなるのが特徴です。

 

密度は純タングステンより若干低くなりますが、依然として非常に高い密度を維持し、放射線遮蔽材や軍事用途、航空宇宙産業で使用されています。機械的強度も優れており、衝撃に対する耐性も向上しています。

 

タングステン銅

タングステン銅合金は、タングステンの高融点・硬度と銅の優れた電気伝導性・熱伝導性を組み合わせた材料です。電気接点や電極材料として広く使用されています。

 

アーク放電に対する耐性が高く、スイッチやリレーの接点部分におすすめの金属です。溶接電極や放電加工用電極としても使用され、精密加工分野で重要な役割を果たしています。

 

樹脂タングステン

樹脂タングステンは、タングステン粉末をゴム状樹脂に混入した複合材料です。タングステンシートとも呼ばれ、伸縮自在でさまざまな形状に加工できます。

 

放射線遮蔽材として医療分野で使用されているほか、オーディオ機器の振動吸収材や防音材としても活用されています。従来の硬いタングステンでは対応できない用途に適用できる革新的な材料です。

 

タングステンを加工する方法

タングステンを加工する方法

タングステンは非常に硬い金属のため、一般的な金属加工とは異なる特別な技術と工具が必要です。適切な加工方法を選択し、条件を最適化することで、高品質な加工が可能になります。各加工方法にはそれぞれ特徴があり、用途に応じて使い分けることが重要です。

 

旋盤加工

タングステンの旋盤加工では、工具の選択が仕上がり品質に大きく影響します。超硬合金のチップを使用すると、すくい角が小さくなり切削抵抗が大きくなるため、面粗度が荒くなります。

 

一方、サーメット(チタン化合物とニッケルやコバルトの焼結材料)のチップを使用すると、すくい角が大きく切削抵抗が小さくなり、滑らかな仕上がりが得られるのが特徴です。切削条件の設定も重要で、適切な切削速度と送り量を選択する必要があります。

 

フライス加工

フライス加工では、荒加工と仕上げ加工で異なる方法を採用します。加工硬化を防ぐため、適切な加工条件の設定が不可欠です。

 

加工工程 使用方法 特徴・注意点
荒加工 湿式加工 回転数を落として加工。切削性が高く、材料除去が効率的。
仕上げ加工 乾式加工 安定した仕上がりが得られる。刃物の滑りを防ぎ、精度を確保できる。
仕上げ加工 湿式加工(非推奨) 刃物が滑りやすく、仕上がりが不安定になる可能性がある。

 

切削加工

タングステンの切削加工には、超硬素材やサーメット素材の工具が適しています。工具選定時は硬度と靭性のバランスを考慮し、タングステンの硬度に対応できる材料を選ぶ必要があります。

 

工具摩耗が速く進行するため、切削加工中は工具の状態を常に監視し、適切なタイミングで交換することが重要です。切削速度や送り量も慎重に設定し、工具寿命を延ばしつつ効率的な加工を行います。

 

接合加工

タングステンの溶接は技術的に非常に困難で、TIG溶接、電子ビーム溶接、レーザー溶接などの方法があります。酸化を防ぐため専用の雰囲気内での作業が必要で、溶接後も高温状態から冷却が完了するまで大気にさらすことはできません。

 

溶接よりもリベット留めやろう付け加工が一般的に選択されます。接合部の品質を確保するため、特殊な設備と熟練した技術が要求されます。

 

板金加工

タングステンは常温では非常に脆いため、板金加工は困難です。適切な温度範囲(200℃から500℃)で加熱することにより延性が向上し、加工性が改善されます。

 

再結晶温度を超えると強度と硬度が低下するため、温度管理が極めて重要です。加熱により結晶構造が変化し、機械的性質が変わるため、用途に応じた適切な加熱条件を設定する必要があります。

 

タップ加工

タングステンのタップ加工は通常のタップでは非常に困難で、大きな負荷がかかりタップが折れやすくなります。プラネットカッターという特殊な工具を使用することで、加工時間を大幅に短縮可能です。

 

プラネットカッターは回転しながら軌道運動を行い、通常のタップよりも効率的にねじ切りができます。加工条件の最適化により、高品質なねじ山を形成できます。

 

タングステンを加工する際の注意点

タングステンを加工する際の注意点

タングステンの加工には多くの注意点があります。材料の特性を理解し、適切な対策を講じることで、安全かつ効率的な加工が可能になります。事前の準備と計画が成功の鍵です。

 

強い衝撃を与えないように注意する

タングステンは硬度が高い反面、衝撃に非常に弱い性質があります。以下の点に注意が必要です。

避けるべき行為:

  • ハンマーでの打撃
  • 急激な力の印加
  • 不要な振動の発生

推奨される対策:

  • 慎重な取り扱い
  • 適切な固定方法
  • 安定した加工環境の構築

破損した場合の安全対策も事前に準備しておくことが大切です。

 

工具や工機を選定する

タングステンの加工には専用の工具と設備が必要です。一般的な工具では対応できないため、以下の要素を考慮して選定します。

必要な工具・設備

  • 超硬素材またはダイヤモンド工具
  • 十分な剛性を持つ工作機械
  • 適切な冷却システム
  • 切りくず処理装置

工作機械も十分な剛性と精度を持つものを使用し、加工中の振動や変形を防ぎます。加工環境全体を最適化する必要があります。

 

加工にコストがかかることに注意する

タングステンの加工は高コストになることが多いです。コスト増加の要因を理解し、適切な対策を講じることが重要です。

 

コスト増加の要因

  • 専用工具の高価格
  • 長い加工時間
  • 高度な技術力の要求
  • 工具摩耗による交換頻度

コスト削減の方法

  • 代替材料の検討
  • 加工方法の最適化
  • 適切な品質要求の設定
  • 効率的な作業計画

品質要求に応じて加工精度を調整し、不要な高精度加工を避けることでコスト削減が可能です。

 

まとめ

タングステンは金属の中で最高の融点と硬度を持つ優秀な材料ですが、加工には特別な技術と注意が必要です。旋盤加工では工具選択が重要で、フライス加工では荒加工と仕上げ加工で異なる条件を採用します。衝撃に弱い性質への配慮、専用工具の使用、高コストへの対応が成功の鍵です。適切な知識と技術を身につけることで、タングステンの優れた特性を活かした高品質な製品を製造できます。

コラム監修者

渡邊 央剛
渡邊 央剛代表取締役社長
高等学校卒業程度認定試験合格後、関西外国語大学で英米語を専攻し、ニューヨーク州立大学経済学部にも在籍。
その後、同志社大学大学院ビジネス研究科で経営学を深め、現在は京都大学大学院法学研究科で法学を学ぶ。
プライム上場企業で培ったマネジメント力を活かし、経営難だった家業を再建。
一気通貫の機械サービス業の体制構築と品質・納期・コストを革新し、読者のものづくり課題に経営視点で応える。

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