板金の曲げ加工とは?加工の種類やメリット、加工時の注意点を解説
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板金の曲げ加工は、金属板を自在に折り曲げて立体的な形状を作り出す重要な技術です。製造業の基盤を支えるこの加工技術には、種類や方法、使用する機械、そして様々な注意点があります。
近年は、デジタル制御技術の発展により高精度な加工が可能になってきました。しかし、その反面で技術的な課題も存在します。
本記事では、板金の曲げ加工について、基礎から実践的な技術までを体系的に解説していきます。
板金とは

製造業の基盤技術である板金は、金属の板材を切断、曲げ、溶接などの加工を施して立体的な形状を作り出す技術です。自動車のボディや電気機器の筐体、建築資材など、私たちの生活に欠かせない製品に幅広く使用されています。近年は、レーザー加工機やサーボプレス機の登場により、高精度な加工が可能になりました。
板金の曲げ加工とは
金属の板材を曲げて立体的な形状を作り出す加工技術です。製造業の現場では最も基本的な工程の一つとして知られています。近年はデジタル技術の進歩により、より高度な加工が可能になってきました。
まずは、板金の曲げ加工について解説していきます。
原理
金属板を2点で支え、中央部に力を加えることで曲げ加工が始まります。この過程で、外側には引張応力が働いて伸び、内側には圧縮応力が作用して縮んでいきます。力を加える位置と支点間の距離は、曲げモーメントを決定づける重要な要素です。
その結果、加工後には材料の弾性により形状が若干戻るスプリングバックが起こってしまうため、これを見越した設計と加工が求められるでしょう。
材料
曲げ加工の主役となるのは、鉄鋼材料とアルミニウムなどの非鉄金属です。材料を選ぶ際は、加工のしやすさ、強度の確保、錆びにくさが重要なポイントです。
圧延方向で性質が変わる特徴があるため、設計段階で材料特性を十分理解しておく必要があります。とりわけ高精度な加工では、材料選定から慎重に検討を重ねていくことが大切でしょう。
板金の曲げ加工のメリットとは

板金の曲げ加工には、製造業において重要な利点がいくつか存在します。主なメリットは以下の通りです。
- 大量生産に向いている
- 複雑な形状にも対応できる
- 金型により生産性が高い
それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。
大量生産に向いている
プレス機械を使用した曲げ加工は、生産速度が速く効率的な製造を実現できます。材料送り装置とNCベンディングマシンを組み合わせれば、材料の設置から曲げ加工、取り出しまでを自動化することが可能です。
一度金型を準備してしまえば、同じ形状の製品を繰り返し短時間で加工できるため、コストを抑えながら大量の部品を生産できるでしょう。自動車部品や電気機器の筐体など、数量が必要な製品の製造に適しています。
複雑な形状にも対応できる
金型の設計を工夫すれば、小さな部品から複雑な多工程曲げまで、幅広い形状に対応できます。V曲げやZ曲げ、ヘミング曲げなど、さまざまな加工方法を組み合わせることで、立体的で精密な製品を作り出せるのです。
圧力の調整や金型の選択により、鋭角から鈍角まで自在に角度を変えられます。プレスするという制約はありますが、金型の形状次第でほぼどのような形状にも加工が可能といえるでしょう。
金型により生産性が高い
90°曲げ用、鋭角曲げ用、R曲げ用など、多様な汎用金型が用意されています。汎用金型は使い回しができるため、製品ごとに専用の金型を製作する必要がありません。
また、汎用金型を組み合わせて使用すれば、多様な形状の曲げ加工が実現できます。金型交換も比較的容易なため、多品種少量生産から大量生産まで柔軟に対応できるのが強みです。
板金の曲げ加工のデメリットとは

板金の曲げ加工には、いくつかの制約や課題も存在します。主なデメリットは以下の通りです。
- 精密な機械調整が求められる
- 金型が必要
- 曲線曲げが難しい
それぞれのデメリットについて解説していきます。
精密な機械調整が求められる
曲げ加工では、材料の弾性によってスプリングバックが発生します。加工後に曲げ角度が跳ね返ってくる現象で、精度に大きく影響を与えてしまうのです。
0.1mm単位の精度が求められる精密板金では、スプリングバックを見越した金型設計や圧力調整が欠かせません。素材やベンダーの特性を理解し、細かな調整を行える高度な技術が必要になります。単純作業に見えても、実際には熟練の技能が求められる加工といえるでしょう。
金型が必要
プレス機械を用いる曲げ加工では、高コストな金型を製造または購入しなければなりません。汎用金型で対応できない特殊な形状の場合、専用金型の製作が必要になり、初期投資が大きくなってしまいます。
金型に費やしたコストを回収するには、ある程度の生産数量が必要です。単品や極めて少量の生産では、金型コストが製品単価を押し上げる要因となるでしょう。
曲線曲げが難しい
ローラーを使用するロール曲げと比べると、ベンダー曲げでは滑らかな曲線形状を作るのが困難です。R曲げ用の金型を使用したり、エアベンディングで角度を調整したりすることで、ある程度の曲線加工は可能になります。
しかし、複雑な曲線では何箇所も曲げ加工を繰り返す必要があり、仕上がりがカクカクとした形状になってしまう場合があるのです。円筒形やパイプ状など、滑らかな曲面が求められる製品には向いていません。
板金の曲げ加工の種類とは

材料を金型で挟んで曲げる型曲げ、複数のロールで連続的に曲げる送り曲げ、複雑な曲面を作るフランジ成形など、様々な加工方法があります。製品の形状や要求精度、生産量によって最適な方法が選ばれます。
- 型曲げ
- 送り曲げ
- フランジ加工
板金加工の主要な曲げ加工技術とその特徴について解説していきましょう。
型曲げ
上型(パンチ)と下型(ダイ)で材料を挟み込んで曲げる加工法が型曲げです。精度が高く生産性に優れており、最も一般的に使われています。金型の組み合わせで様々な形状に対応できるため、多品種少量生産にも向いています。
加工条件によってエアベンディング、ボトミング、コイニングの3種類があり、必要な精度に応じて使い分けられています。
エアベンディング
材料を3点でのみ接触させて曲げるため、1つの金型で様々な角度に対応できる柔軟性が特徴となっています。加工圧力が小さく済み、金型の寿命も長くなります。比較的シンプルな形状の部品製作に適していて、生産性とコストのバランスが取れた方法といえるでしょう。
コイニング
金型に強く押し付けて高精度な曲げを実現する方法です。大きな加圧力が必要で金型の摩耗も早いものの、最も高い精度が得られます。寸法精度が厳しい部品や、外観品質が重視される製品の製作に使われることが多いです。工具寿命とコストを考慮した使用が求められます。
ボトミング
エアベンディングとコイニングの中間的な特徴を持つ加工方法です。比較的小さな力で良好な精度が得られるため、最も広く採用されています。汎用性が高く、様々な板厚や材質に対応できることから、一般的な板金部品の製作に適しているといえるでしょう。
L字曲げ
材料を確実に固定して曲げる方法で、長尺物や大きな板材の加工に適しています。自重による変形を防ぎやすく、安定した品質が得られるのが特徴です。ただし、スプリングバックの制御が難しいため、高精度な加工には工夫が必要となってきます。
送り曲げ
複数のロールを使用して連続的に曲げを行う加工方法が特徴です。長尺物の加工に適しており、高い生産性を実現できます。パイプや建材などの製造でよく使われ、複雑な断面形状も作れるのが強みです。ただし、初期設定に時間がかかり、頻繁な形状変更には向いていません。
フランジ加工
複雑な曲面を持つ自動車部品などの製造に欠かせない加工技術です。内側に曲げる「伸びフランジ」と外側に曲げる「縮みフランジ」があり、材料の変形を精密にコントロールする必要があります。高度な技術と経験が求められ、シワや割れの防止が重要なポイントといえるでしょう。
板金の曲げ加工の金型の種類とは

板金加工の精度と効率を左右する重要な要素が金型です。パンチとダイの組み合わせにより、様々な形状の加工を実現しています。金型の選定は製品品質に直結するため、材料特性や加工条件を考慮した適切な選択が必要です。さらに、金型の寿命や保守管理も重要な課題となっています。
- パンチ
- ダイ
- 選定方法
曲げ加工に使用される金型の種類と選定方法について解説していきましょう。
パンチ
上型となるパンチは材料を押し込む重要な役割を担っています。耐摩耗性が高い工具鋼で作られ、表面処理により寿命を延ばすことが可能です。角度や用途に応じて様々な形状があり、V型やL型が一般的。金型の選定時には加工形状だけでなく、材料特性も考慮に入れる必要があるのです。
ダダイ
下型となるダイは材料を受け止める重要な役割を果たします。V溝の形状が加工精度を大きく左右し、一般的に溝幅は板厚の6~8倍が目安です。適切な選択により、加工精度と工具寿命のバランスを取ることができます。材質や表面処理はパンチと同様の配慮が重要です。
選定方法
金型の選定では、加工形状、板厚、材質を総合的に判断していきます。リターンベンドグラフを活用して干渉チェックを行い、最適な加工順序を決定することが大切です。標準金型の使用はコスト面で有利ですが、特殊な形状には専用金型の製作も検討する必要があるでしょう。
板金の曲げ加工に使う加工機とは

現代の板金加工では、様々な専用機械が使われています。パネルベンダーは薄板加工に特化し、プレスブレーキは汎用性の高さが特徴です。それぞれの機械には得意分野があり、製品の特性に応じて使い分けることが重要です。
- パネルベンダー
- プレスブレーキ
- ロールベンダー
- CNCパイプベンダー
- ロールフォーミングマシン
- フォールディングマシン
- リングフォーマー
加工機の特徴と選び方のポイントについて解説していきましょう。
パネルベンダー
薄板加工に特化した機械で、1.6mm以下の板材を効率的に曲げられます。金型交換が少なく生産性が高いのが特徴で、複雑な形状の連続曲げも可能です。自動化が容易なため、大量生産に向いていますが、加工面に傷が付きやすいという欠点があります。
プレスブレーキ
最も広く使われている曲げ加工機で、様々な板厚や形状に対応できます。金型の交換で多様な加工が可能で、単品から量産まで幅広く活用されているのです。デジタル制御の導入により精度が向上し、操作性も改善されていますが、熟練の技術が必要な場面も多いでしょう。
ロールベンダー
3本のローラーで構成された加工機で、金属板をR状に曲げるのに適しています。素材をローラーの間に通し、圧力をかけながら円筒形やパイプ状に成形できるのが特徴です。ローラーの本数は3本が標準的ですが、加工する形状によって2本式や4本式のタイプも使われています。建築資材や配管部品など、曲線を持つ製品の製作に欠かせない機械といえるでしょう。
CNCパイプベンダー
パイプ専用の曲げ加工機で、コンピューター制御による高精度な加工が実現できます。立体的な曲げを連続して行えるため、複雑な配管部品の製造に向いているのです。プログラム制御により、同じ形状を繰り返し精密に加工できます。自動車の排気管や建築用の手すりなど、曲がったパイプが必要な製品の生産に広く活用されています。
ロールフォーミングマシン
複数のローラーを通して連続的に成形を行う機械です。金属板を順次通過させながら、段階的に目的の断面形状へと加工していきます。オートメーション化が進んでおり、大量生産に適しているのが強みです。建材や自動車部品など、同一形状の長尺製品を効率的に製造する場面で活躍しています。
フォールディングマシン
金属板を正確な角度で折り曲げ、箱やパネルといった立体形状を作る装置です。プログラム制御により、高い精度で同じ作業を繰り返し実行できます。手作業と比べて操作が簡単で、安全性も向上しているのが特徴です。複雑な形状や大きなサイズの板材も正確に折り曲げられるため、製品の多様性と品質の安定に貢献しています。
リングフォーマー
丸棒材を曲げ加工するための専用機械です。建築資材や土木資材に使われる製品の製造に用いられ、鉄筋の曲げ加工などで活躍しています。棒状の素材を円形やリング状に成形できるため、建設現場で必要な部材の製作に欠かせない装置といえるでしょう。
板金の曲げ加工に限界があると言われる理由とは

板金の曲げ加工には、機械の性能や材料特性による制約があります。加工範囲や溝幅の限界は、製品設計の段階から考慮すべき重要な要素です。これらの制約を理解し、適切な対策を講じることで、高品質な製品を効率的に生産することが可能です。
曲げ加工の限界とその対処法について解説していきます。
加工範囲が限られる
機械の大きさと耐圧力の制限により、加工できる板厚や長さには上限があります。複雑な形状では金型との干渉も問題となり、設計変更が必要になることもあります。これらの制約は工場の設備によっても異なるため、事前の確認が重要です。
加工の溝幅に限界がある
ダイの溝幅は材料と板厚に応じて適切な範囲が決まっています。狭すぎると加工不良の原因となり、深い溝では機械との干渉や強度不足が問題になるでしょう。これらの制約を考慮した設計と、適切な金型の選択が求められます。
板金の曲げ加工時の注意点とは

曲げ加工の品質を確保するには、様々な技術的な注意点があります。材料の特性や加工条件を理解し、適切な対策を講じることが不可欠です。特に板厚の確認やスプリングバックへの対応、金型の選択など、細かな配慮が必要です。
生産効率と品質を両立させるための重要なポイントについて解説していきます。
板厚を確認する
板厚は加工条件を決める重要な要素として知られています。適切な金型選択や機械の能力確認が欠かせず、板厚が大きくなるほど必要な加工力も増加していきます。精度の確保も難しくなるため、材料選定の段階から慎重な検討が必要になるのです。
スプリングバックの対策をする
材料の弾性によって発生するスプリングバックは、精度に大きく影響を与えます。材質や板厚に応じて適切な過剰曲げ角度を設定し、必要に応じて試作での確認も行うことが重要です。経験値の蓄積と数値化により、安定した品質を確保できるでしょう。
リターンベンドグラフを活用する
複雑な形状の加工では、金型との干渉を事前にグラフで確認することが大切です。これにより適切な加工順序と金型の選択が可能となり、手戻りを防げます。グラフの読み方と活用方法の習得が、効率的な生産の鍵といえるでしょう。
曲げ部と穴位置を確認する
穴位置が曲げ部に近すぎると、変形や寸法不良の原因となってしまいます。一般的に板厚の3~5倍以上の距離確保が推奨され、それが難しい場合は曲げ加工後の穴加工を検討する必要があるでしょう。適切な加工順序の決定が重要なポイントとなるのです。
板金の曲げ加工に関するよくある質問

板金の曲げ加工について、お客様から多く寄せられる疑問にお答えします。費用や精度、材料選びなど、実務で役立つ情報をまとめました。
Q1. 板金の曲げ加工にかかる費用はどのくらいですか?
費用は製品の形状、板厚、材質、数量によって大きく変動します。単品や小ロットの場合、金型の準備や段取りに時間がかかるため、1個あたりの単価は高くなる傾向があるでしょう。一方、大量生産では自動化により単価を抑えられます。
具体的な費用を知るには、図面や仕様書を用意して加工業者に見積もりを依頼するのが確実です。板厚が厚いほど必要な加工力が大きくなり、特殊な金型が必要な複雑形状は別途コストが発生します。材料費も含めた総合的な見積もりを複数社から取得し、比較検討することをおすすめします。
Q2. 曲げ加工の精度はどの程度まで出せますか?
一般的な曲げ加工では、角度精度は±0.5~1度程度、寸法精度は±0.1~0.3mm程度が標準的な範囲となっています。ただし、加工方法や使用する機械、材料特性によって精度は変わってきます。
コイニング加工を用いれば、より高い精度を実現できますが、加工コストは上昇するでしょう。デジタル制御のプレスブレーキを使用すれば、安定した品質が得られます。高精度が求められる部品では、スプリングバックを考慮した設計と試作での検証が欠かせません。求める精度レベルと予算のバランスを考えながら、加工方法を選択していくことが大切です。
Q3. 材料の選び方のポイントを教えてください
材料選定では、加工のしやすさ、強度、耐食性、コストのバランスを考えます。一般的な板金部品には鉄鋼材料のSPCC(冷間圧延鋼板)やSUS304(ステンレス鋼)が多く使われており、軽量化が必要な製品にはアルミニウムが選ばれています。
曲げ加工では、材料の圧延方向によって割れやすさが変わるため、設計段階での配慮が必要です。板厚が薄すぎると曲げ部にシワが発生しやすく、厚すぎると必要な加工力が大きくなります。使用環境や要求される性能を明確にしたうえで、加工業者に相談しながら選定を進めていくとよいでしょう。
まとめ:板金の曲げ加工のご依頼は「タキオンワタナベ」にお問い合わせください
板金の曲げ加工は、製品の品質を左右する重要な工程です。加工方法の選択から、材料特性の理解、適切な金型の選定まで、さまざまな要素を考慮する必要があります。特に、スプリングバックへの対応や穴位置の確認、リターンベンドグラフの活用など、基本的な注意点を押さえることが不可欠です。
これらの知識と技術を組み合わせることで、高品質な製品を効率的に生産できるでしょう。
株式会社タキオンワタナベでは、長年培ってきた板金加工の技術と知識をもとに、お客様のニーズに合わせた高品質な製品をご提供しています。単品から量産まで幅広く対応しており、図面作成から加工、仕上げまで一貫したサービスを実現しているのです。
精密な曲げ加工が必要な製品や、複雑な形状の部品製作でお困りの際は、ぜひタキオンワタナベにご相談ください。経験豊富な技術スタッフが、お客様の課題解決に向けて最適な加工方法をご提案いたします。お見積もりやご相談は、お電話またはお問い合わせフォームから承っております。
コラム監修者

- 代表取締役社長
-
高等学校卒業程度認定試験合格後、関西外国語大学で英米語を専攻し、ニューヨーク州立大学経済学部にも在籍。
その後、同志社大学大学院ビジネス研究科で経営学を深め、現在は京都大学大学院法学研究科で法学を学ぶ。
プライム上場企業で培ったマネジメント力を活かし、経営難だった家業を再建。
一気通貫の機械サービス業の体制構築と品質・納期・コストを革新し、読者のものづくり課題に経営視点で応える。
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