圧縮成形とは?加工の特徴やメリット・デメリット、加工方法を解説 | 株式会社タキオンワタナベ

コラム

圧縮成形とは?加工の特徴やメリット・デメリット、加工方法を解説

2025年8月7日

圧縮成形は、樹脂加工の中でも歴史ある製法として多くの製品に利用されています。金型を使って材料を圧縮し、加熱によって固める加工方法です。家庭でよく見る灰皿や電気スイッチなど、身近な製品にも採用されており、製造業において重要な役割を果たしています。

 

この記事では、圧縮成形の基本概念から具体的な加工手順、メリット・デメリット、必要な加工条件まで詳しく解説します。

 

圧縮成形とは

圧縮成形とは

圧縮成形とは、熱硬化性樹脂を主に使用する加工方法で、他の樹脂加工とは異なる特性を持っています。材料の性質を活かした製品作りが可能で、さまざまな分野で活用されています。圧縮成形の基本的な仕組みから用途まで、幅広く理解することで加工選択の参考になるでしょう。

 

定義

圧縮成形とは、流動性のある熱硬化性樹脂を金型のキャビティ(成形部分の凹部)に入れ、圧力をかけて充填させる加工方法です。金型内に材料を入れた後、200℃程度まで加熱しながら圧力を加えることで、材料を固めて成形します。

 

熱硬化性樹脂は、加熱すると硬化する性質を持ち、一度硬化すると再加熱しても柔らかくなりません。強度や絶縁性に優れている反面、耐衝撃性は熱可塑性樹脂に劣るという特徴があります。

代表的な材料には以下があります:

材料名 特徴 主な用途
フェノール樹脂 耐熱性・絶縁性が高い 電気部品・灰皿
メラミン樹脂 表面硬度が高い 食器・化粧板
エポキシ樹脂 接着性・絶縁性が良い 電子部品・接着剤
尿素樹脂 成形性が良い 日用品・電気器具

 

用途

圧縮成形品は、熱硬化性樹脂の特性を活かして以下のようなさまざまな分野で使用されています。

分野 用途例
家庭用品 灰皿、電気スイッチ、台所用品
産業分野 航空機部品、発電機器部品
電子機器分野 絶縁材料、プリント基板
自動車分野 エンジン周辺部品

 

各材料の耐熱温度は以下の通りです。

  • フェノール樹脂・尿素樹脂・メラミン樹脂:約100℃
  • エポキシ樹脂:150~200℃

 

特徴

圧縮成形は、他の樹脂加工方法と比較して独特な特徴を持っています。

 

金型構造が単純で製作コストを抑えられる反面、複雑な形状の成形には制約があります。高密度な製品が得られる一方で、バリと呼ばれる突起が発生しやすく、清掃の手間がかかることも特徴です。

 

材料を直接金型に充填するため、射出成形のようなランナーやゲートによる材料ロスが少なく、経済的な加工が可能です。

 

圧縮成形のメリットとは

圧縮成形のメリットとは

圧縮成形には、他の加工方法では得られない独自のメリットがあります。以下では圧縮成形の主なメリットを紹介します。

 

コストがかからない

圧縮成形は、金型製作から材料使用まで総合的にコストを抑えられる加工方法です。

 

構造がシンプルなため初期投資を抑えて製品製造を開始できます。金型製作費が安価で、構造が単純なため射出成形用金型と比較して大幅にコスト削減が可能です。材料ロスも少なく、ランナーやゲートがないためバリ以外は材料をムダなく使用できます。

 

設備費も安く、成形方法が比較的単純で必要な設備投資が少なく済みます。運営面でも他の成形方法より経費を抑えられるため、特に小ロット生産や試作品製造において、コスト効率の良い選択肢です。

 

転写性が高い

圧縮成形では、材料に直接圧力をかけるため、金型の細かい形状まで正確に転写できます。高密度な成形品が得られることで、精密な製品製造が可能です。金型の隅々まで成形圧力が伝わり、微細な形状も正確に再現できるため表面品質の向上につながります。成形圧力が直接製品にかかるため、内部応力が少なく、寸法安定性の高い製品が制作できます。

 

低圧力で加工できる

他の成形方法と比較して、圧縮成形は低い圧力で加工が可能です。圧力損失が少ないため、エネルギー効率の良い加工ができます。材料に直接圧力をかけるため効率的で、低圧力で成形できるため金型の寿命が延びます。

 

消費電力を抑えた加工が可能なため環境にも優しく、同じ設備で大きな投影面積の製品を成形することも可能です。材料の配向も少ないため、樹脂本来の特性を活かした高強度製品の製造ができます。

 

圧縮成形のデメリットとは

圧縮成形のデメリットとは

圧縮成形にはメリットがある一方で、注意すべきデメリットも存在します。加工方法の特性上、避けられない制約があるため、製品設計時に考慮する必要があります。特に形状の制限や作業効率について理解しておくことが重要です。

 

複雑な形状の加工には向かない

圧縮成形は、金型の構造と成形原理の制約により、複雑な形状の製品製造が困難です。製品設計時には、成形可能な形状を考慮する必要があります。

 

金型の構造が単純でなければならず、アンダーカット部の成形が困難です。深い凹部や細い突起の形成が難しく、複数の部品を一体成形することも制限されます。

 

平面的で比較的単純な形状の製品に適しており、立体的で複雑な製品には他の成形方法が選ばれることが多いです。

 

加工に時間がかかる

圧縮成形は、作業工程が多く手作業に依存する部分があるため、他の成形方法と比較して加工時間が長くなりがちで、量産効率の向上が課題です。

 

材料の計量・投入では手作業による材料準備が必要で、バリ取り作業では厚いバリの除去に時間を要します。ガス付着による金型清掃作業も必要で、成形品の手作業による取り出しも時間がかかります。特に大量生産においては、作業効率の改善が重要な課題といえるでしょう。

 

金型の構造が複雑になってしまう

一部の圧縮成形では、特殊な機能を持つ金型が必要になる場合があり、金型の構造が複雑化することがあります。

 

ガス抜き機構の追加や材料充填の均一化機構、温度制御システム、自動取り出し装置などが必要になると、金型製作費用や保守コストに影響を与える可能性があります。ただし、基本的な圧縮成形金型は他の成形方法と比較してシンプルな構造です。

 

圧縮成形の加工の流れとは

圧縮成形の加工の流れとは

圧縮成形の工程は、材料準備から最終仕上げまで複数のステップで構成されています。各工程での適切な管理が、品質の良い製品を作るために不可欠です。

 

材料の準備

成形材料の正確な秤量は、品質の良い製品を作るための最初の重要なステップです。

 

材料量の過不足は直接製品品質に影響するため、慎重な作業が求められます。正確な計量では製品重量よりわずかに多めに秤量し、材料の状態は粉末状または粒状が基本です。大量生産時は錠剤状に予備成形してタブレット化し、品質管理では材料の均一性を確保します。

 

材料が少なすぎると十分な加圧ができず不良品となり、多すぎると寸法精度が悪化し材料ロスが発生するので注意です。

 

材料の予熱

成形材料を事前に加熱することで、成形時間の短縮と品質向上を図ります。

 

予熱は成形効率を大幅に改善する重要な工程です。成形時間が短縮され内部まで熱が伝わりやすくなり、温度むらを減らすことで品質向上につながります。材料が軟化し成形しやすくなるため低圧成形ができ、低圧力で成形できるため金型損傷を防止することが可能です。高周波予熱機が効果的で、平行極板式とローラー電極式があります。

 

金型への充填

予熱した材料を金型のキャビティに均一に充填する工程です。充填の均一性が製品品質に大きく影響するため、注意深い作業が必要です。材料の偏りを防ぎ、均一な分散を心がけましょう。

 

材料の硬化を防ぐため素早く充填し、金型温度を一定に保つ温度管理も重要です。複雑な金型では専用器具を活用して補助します。材料が偏って充填されると、密度にばらつきのある製品ができてしまいます。

 

ガス抜き

成形材料を加熱する際に発生するガスを除去する重要な工程です。

 

ガスが製品内に残ると、さまざまな成形不良の原因となります。まず低圧力で材料を軟化流動させ、材料が金型内に行き渡った段階で金型を開きます。数秒間圧力を抜いてガスを逃がし、金型を閉じて本格的な加圧に移りましょう。

 

ガス抜きにより、ふくれや巣の防止、ひび割れの予防、表面品質の向上、強度低下の防止が可能です。タイミングが遅れると硬化が進みすぎ、効果的なガス抜きができなくなります。

 

加熱と加圧

ガス抜き後、本格的な加熱加圧工程に入ります。

 

材料の熱硬化反応を起こさせる重要な工程です。材料の種類に応じた適温設定での温度管理、製品形状に適した圧力調整での圧力管理、肉厚に応じた硬化時間設定での時間管理、温度と圧力の同時管理による制御が必要です。硬化時間は製品の肉厚1mmあたり約1分が標準とされており、予熱を行うことで1/3程度まで短縮できます。

 

冷却

成形品の品質向上と取り出しやすさを改善するための工程です。

 

必要に応じて実施され、製品の特性向上に貢献します。成形ひずみの緩和により内部応力を軽減し、型離れの改善により取り出しが容易になるのも特徴です。

 

表面光沢の向上により外観品質が改善され、インサート製品のひび割れ防止効果もあります。成形温度より30〜50℃低い温度で、成形圧力より低い圧力で冷却を行います。

 

取り出しと仕上げ

成形が完了した製品を金型から取り出し、最終的な仕上げ作業を行います。

 

製品品質の最終確認も含まれる重要な工程です。取り出し方法には、機械的に押し出すエジェクターピン方式、薄物や変形しやすい製品に使用するストリッパープレート方式、真鍮ヘラやゴムシート、吸盤を使用する手作業があります。

 

仕上げ作業では、バリの除去を機械または手作業で行い、表面検査や寸法確認を実施します。必要に応じてアフターベーク(後焼成)も行いましょう。バリは必ず発生するため、適切な除去作業が品質確保に重要です。

 

圧縮成形に必要な加工条件とは

圧縮成形に必要な加工条件とは

圧縮成形で良質な製品を作るためには、適切な加工条件の設定が欠かせません。温度、圧力、時間の各条件を材料特性と製品形状に合わせて調整することで、品質の高い製品を安定して製造できます。

 

予熱温度

材料の予熱温度は、成形効率と品質に大きく影響する重要な条件です。

 

材料の種類と製品の要求品質に応じて、適切な温度設定を行う必要があります。材料の軟化温度以下で設定し、硬化反応が始まらない温度範囲を選びます。水分や揮発分の除去が可能な温度で、均一加熱が可能な条件で行いましょう。高周波予熱では、内部まで均一に加熱可能で短時間での予熱ができます。エネルギー効率が良く、材料の種類に応じた周波数選択も可能です。

 

適切な予熱により、成形時間を大幅に短縮し、製品品質を向上させられます。

 

成形温度

金型温度として表される成形温度は、硬化速度と製品品質を決定する重要な要素です。材料の特性と製品の肉厚を考慮した温度設定が必要です。

温度設定の考え方

製品特性 推奨温度設定 理由
厚肉製品 やや低め 内外の硬化度を均一にするため
薄肉製品 やや高め 成形効率向上のため
精密製品 中程度 寸法精度確保のため

各材料の標準成形温度

  • フェノール樹脂:150~170℃
  • メラミン樹脂:150~170℃
  • エポキシ樹脂:120~150℃
  • 尿素樹脂:140~160℃

温度が高すぎると表面と内部の硬化度に差が生じ、低すぎると硬化不足になります。

 

成形圧力

製品を金型の隅々まで充填し、十分な密度を確保するために必要な圧力です。材料の特性と製品形状に応じた適切な圧力設定が重要です。

 

圧力計算の基本

所要圧力 = 成形圧力(kg/cm²) × 製品投影面積(cm²)

 

材料別の標準成形圧力

  • フェノール樹脂:300~500 kg/cm²
  • メラミン樹脂:200~400 kg/cm²
  • エポキシ樹脂:50~200 kg/cm²
  • 尿素樹脂:200~350 kg/cm²

圧力設定の注意点

  • 立ち上がりのある形状は20~30%高めに設定
  • 多数個取りの場合はキャビティ間の面積も考慮
  • 安全率として30%程度の余裕を見る

 

成形時間

材料の完全硬化に必要な時間で、製品品質と生産効率に直結する重要な条件です。肉厚と材料特性を考慮した適切な時間設定が必要です。

硬化時間の目安

  • 標準:肉厚1mmあたり50~60秒(フェノール樹脂)
  • 予熱使用時:標準時間の約1/3に短縮可能
  • メラミン・尿素樹脂:フェノール樹脂より短め

時間設定に影響する要因

  • 材料の種類:硬化速度の違い
  • 製品肉厚:厚いほど長時間必要
  • 成形温度:高温ほど短時間
  • 予熱条件:効果的な予熱で大幅短縮

時間が短すぎると硬化不足で品質が低下し、長すぎると表面変色や生産効率悪化の原因となります。

 

まとめ

圧縮成形は、熱硬化性樹脂を使用した歴史ある加工方法で、シンプルな構造ながら高品質な製品を製造できる特徴があります。金型製作コストが安価で材料ロスが少ないため、経済的な製造が可能です。一方で、複雑な形状の加工には向かず、作業時間が長くなりがちなデメリットもあります。

コラム監修者

渡邊 央剛
渡邊 央剛代表取締役社長
高等学校卒業程度認定試験合格後、関西外国語大学で英米語を専攻し、ニューヨーク州立大学経済学部にも在籍。
その後、同志社大学大学院ビジネス研究科で経営学を深め、現在は京都大学大学院法学研究科で法学を学ぶ。
プライム上場企業で培ったマネジメント力を活かし、経営難だった家業を再建。
一気通貫の機械サービス業の体制構築と品質・納期・コストを革新し、読者のものづくり課題に経営視点で応える。

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