アルミ板金加工とは?特徴や難しいといわれる理由、加工ポイントなどを解説
2025年7月24日
アルミ板金加工とは、薄いアルミニウム板を切断・曲げ・溶接などの方法で形を変える加工技術です。軽量性と耐食性に優れているため、自動車・電子機器・建築分野で幅広く活用されています。
本記事では、アルミ板金加工の特徴や難しさの理由、成功のポイントについて詳しく解説していきます。
アルミ板金とは?
アルミニウムを薄い板状に加工した素材を「アルミ板金」と呼びます。金属板を用途に応じて切断・曲げ・溶接などで加工・変形する技術が「板金加工」で、アルミニウムに特化したものがアルミ板金加工です。
アルミニウムは軽量でありながら強度を持ち、錆びにくい特性があるため、多くの産業分野で重宝されています。しかし、他の金属と比べて柔らかく、取り扱いには専門的な知識と技術が求められます。
特徴
アルミ板金には以下のような特徴があります。
特徴 | 詳細 |
軽量性 | 他の金属に比べて軽く、製品の軽量化に貢献 |
耐食性 | 錆びや腐食が発生しにくく、長期使用が可能 |
熱伝導性 | 熱を効率よく伝える性質を持つ |
電気伝導性 | 電気を通しやすい性質がある |
加工性 | 柔らかく、任意の形に変形させやすい |
強度向上 | 他の金属を添加することで強度を高められる |
用途
アルミ板金は幅広い分野で活用されています。
- 電子機器:パソコンやスマートフォンのカバー、フレーム
- 自動車部品:エンジン部品、ボディパネル
- 家具:机、収納ラック、キッチン用品
- 住宅設備:流し台、郵便受け、雨どい
- 航空機:機体構造、内装部品
- 産業機械:カバー、筐体、フレーム
アルミ板金の主な種類とは
アルミニウムは純度によって「純アルミニウム」と「アルミニウム合金」に分類されます。実際の製品にはほとんどの場合、強度を高めたアルミニウム合金が使用されています。合金は添加される金属によって4桁の数字で分類され、それぞれ異なる特性を持ちます。
系統 | 添加金属 | 特徴 | 用途例 |
A1000系 | 純アルミニウム | 加工性がよい、強度は低め | 台所用品、照明器具 |
A2000系 | 銅・マグネシウム | 高強度(ジュラルミン) | 精密機器、輸送容器 |
A3000系 | マンガン | 強度と耐食性のバランス | アルミ缶 |
A4000系 | シリコン | 耐熱性・耐摩耗性 | 溶接材料 |
A5000系 | マグネシウム | 耐食性・加工性・強度 | 船舶、車両 |
A6000系 | シリコン・マグネシウム | 強度と耐食性 | 建築材料 |
A7000系 | 亜鉛・マグネシウム | 超高強度 | 航空機部品 |
アルミ板金加工が難しいといわれる理由とは
アルミニウムは加工しやすい金属として知られていますが、同時に取り扱いが難しい面もあります。軽量で加工性に優れる反面、その柔らかさが原因でさまざまな問題が発生しやすくなるのです。
適切な加工を行うためには、アルミニウム特有の性質を理解し、それに応じた技術と経験が必要になります。高品質な製品を作るには、熟練した職人の技術力が欠かせません。
強度が低く壊れやすい
アルミニウムは他の金属と比べて強度が低く、些細な衝撃でも破損しやすい特性があります。
ブリネル硬さ比較
- アルミニウム:15HB
- 銅:35HB(約2.3倍)
- 鉄:112HB(約7.5倍)
- ステンレス:1250HB(約83倍)
数値が示すように、アルミニウムは他の金属に比べて著しく柔らかい材料です。加工中の取り扱いはもちろん、運搬や保管時にも細心の注意が必要になります。重ね置きによる変形を避けるため、専用の保管方法を取る必要があります。
形が変わりやすく傷がつきやすい
アルミニウムの柔らかさは、傷や凹みがつきやすいという問題を引き起こします。わずかな衝撃でも表面が損傷しやすいため、加工時だけでなく、移動や運搬の際にも丁寧に取り扱うことが重要です。
作業者はアルミニウムの扱い方を十分に理解し、適切に動かす技術が求められます。また、加工工具との接触でも簡単に表面が傷ついてしまうため、工具の選定と慎重な作業が欠かせません。
溶接が難しい
アルミニウムの融点は約660度と他の金属に比べて低いため、溶接作業が困難になります。
各金属の融点比較
- アルミニウム:660℃
- 銅:1084.5℃
- 鉄:1536℃
- ステンレス:1400~1500℃
融点が低いことで熱によって溶け落ちてしまったり、高い熱伝導性により熱変形が発生したりする問題があります。溶加材がうまく溶けずに溶接できないケースも発生します。
成功させるには入熱管理、溶接時間の短縮、適切な環境作りが必要で、高い技術力を持つ職人が不可欠です。
アルミ板金加工の種類とは
アルミ板金加工には複数の加工方法があり、製品の用途や形状に応じて適切な方法を選択しましょう。各加工方法にはそれぞれ特徴があり、アルミニウムの性質を考慮した技術とノウハウが必要です。
一般的には設計から納品まで一貫した生産体制を取ることで、品質の向上と効率的な製造が可能になります。適切な加工方法の選択により、アルミニウムの特性を活かした高品質な製品を作ることができます。
切断加工
アルミ板金の切断は比較的容易で、さまざまな工具を使用できます。
主な切断方法
- シャーリング切断:大型のアルミ板を効率よく切断
- レーザー切断:精密で複雑な形状の切断が可能
- ウォータージェット切断:熱の影響を受けない切断方法
- ソー(鋸)切断:形材の寸法切断や角度切断
- プラスチックカッター:薄いアルミ板の簡易切断
切断時はバリの発生や断面での怪我に注意が必要です。また、アルミ合金の種類によって強度が変わるため、適切な工具と加工条件の選択が重要になります。
曲げ加工
アルミ板金の曲げ加工は主に2つの方法に分類されます。いずれもアルミニウム特有の性質を理解した上で、適切な技術と設備を使用することが重要です。スプリングバックやクラックの発生を防ぐため、曲げ半径や加工条件の設定には細心の注意が必要になります。熟練した技術者による適切な作業により、高精度な曲げ加工が実現できます。
ロール曲げ加工
平板状のアルミ板を専用機械で円筒形状に曲げる加工方法です。ロールの直径を変えることで曲げ径を調整できます。パイプや筒状の部品製作に適しており、連続的な曲線を作ることが可能です。加工時は材料の送り速度や圧力を適切に調整し、しわや割れの発生を防ぐ技術が求められます。
ベンダー曲げ加工
金型とパンチの間にアルミ板を置き、挟み込むことで曲げる方法です。V曲げ、L曲げ、Z曲げなどさまざまな形状に対応でき、生産速度が速く大量生産にも適しています。ただし、圧力計算や金型選定には高度な技術が必要で、アルミの種類や板厚に応じて加工条件を変更する必要があります。
表面処理加工
アルミ板金には耐食性や外観向上のため、さまざまな表面処理が施されます。
主な表面処理方法
- アルマイト処理:耐食性と強度の向上
- カラーアルマイト:着色による意匠性の向上
- 焼付塗装:美観と保護機能の両立
- ヘアライン研磨:表面の美しい仕上げ
- 電着クリヤー:艶の調整が可能
表面処理により、アルミニウム本来の特性をさらに向上させることができます。用途に応じて適切な処理方法を選択することが重要です。
溶接加工
アルミニウムの溶接は高度な技術を要する加工方法です。TIG溶接、MIG溶接、スポット溶接などの方法があります。融点の低さと高い熱伝導性により、歪みが生じやすく、入熱管理と溶接時間の短縮が重要になります。適切な溶接材料の選択と、経験豊富な溶接技術者による作業が高品質な溶接につながるでしょう。
アルミ板金の加工事例
実際のアルミ板金加工では、切断・曲げ・溶接・表面処理などを組み合わせて製品を製作します。各製品の用途や要求される性能に応じて、適切な材料選択と加工方法の組み合わせが重要です。
ここでは代表的な加工事例を通じて、アルミ板金加工の実際の応用例を紹介します。
カバー
仕様
- 素材:A1100(純度99.00%以上のアルミニウム)
- 板厚:t1.5
- 加工:穴あけ加工+曲げ加工
A1100は純アルミニウムに少量の銅を添加した材料で、熱伝導性・電気伝導性に優れています。台所用品や照明器具などの部品として使用されることが多く、加工性が良好で精密な穴あけと曲げ加工が可能です。
ケース
仕様
- 素材:A1050(成分の99.50%以上がアルミニウム)
- 板厚:t1.0
- 加工:箱曲げ加工
A1050は純度が高く、板厚も豊富なことから最も広く使用されているアルミ素材です。箱曲げ加工により、電子機器の筐体や収納ケースなどに活用できます。純度の高さにより、アルミニウム本来の特性が発揮されやすい材料です。
医療部品
医療機器向けの精密板金部品には、高い精度と清潔性が求められます。ファクトリー・オートメーションや医療、バイオ分野で使用されるカメラ部品などは、抜き・カシメ・曲げ加工を組み合わせて製作されます。
ファイバーレーザー複合機による高速かつ高品位な加工により、後工程に多くのリソースを割くことが可能となり、高品質な製品を実現できます。
アルミ板金加工の成功ポイント
アルミ板金加工を成功させるためには、アルミニウム特有の性質を理解し、適切な技術と経験に基づいた作業が必要です。材料の選択から加工条件の設定、工具の選定まで、すべての工程で専門的な知識が求められます。
特に曲げ加工では、腰折れやひび割れなどの不良を防ぐため、細心の注意と高度な技術が必要です。成功の鍵は、経験豊富な技術者による適切な判断と作業にあります。
腰折れに注意する
アルミニウムは柔らかく曲がりやすいため、「腰折れ」が発生しやすい特徴があります。腰折れとは、金型を支点として部材の根元が反対側に折れ曲がってしまう現象です。
一度発生すると修正が困難で、不良品となってしまいます。防止するには圧力のかけすぎを避け、アルミ板金の材質と板厚に合わせて適切な圧力で加工することが重要です。熟練の技術者による細心の注意が必要な作業です。
適切な金型を選定する
アルミニウムは柔らかく加工しやすい反面、鉄などに比べてひび割れが起きやすい性質があります。無理に強い力をかけて曲げると、ひび割れが発生し不良品となります。
対策として、金型のV角度を緩やかにし、R付きの金型を使用することで圧力を逃がしながら曲げることが重要です。また、アルミの種類(1000番台〜7000番台)や板厚に応じて、都度条件や金型を変更する必要があります。
加工するアルミの性質を理解する
アルミニウムは以下の特徴を持つ金属です。
- 融点が低い:切りくずや切粉の溶着に注意が必要
- 延性がある:変形しやすいため取り扱いに注意
- 靭性が低い:衝撃に弱く破損しやすい
加工方法ごとにアルミニウムの性質を考慮した適切なアプローチが必要です。例えば、穴あけ加工ではドリルの回転数を速くしてバリの発生や溶着を防ぎ、切断加工では適切な工具選択により品質の向上を目指します。
まとめ
アルミ板金加工は軽量性と耐食性に優れた製品を作る重要な技術です。しかし、アルミニウムの柔らかさや融点の低さから、高度な技術と経験が必要になります。成功のポイントは材料の性質理解、適切な金型選定、腰折れ防止などです。技術の継承がなされた専門業者への依頼を検討しましょう。