ステンレス板金の加工方法は?種類や特徴、注意点をわかりやすく解説
2025年8月28日
ステンレス板金は、耐食性と強度を兼ね備えた優れた金属材料として、工業分野から日常生活まで幅広く活用されています。しかし、その特性から加工には高度な技術と注意深い工程管理が必要です。
この記事では、ステンレス板金の基本的な知識から加工方法の詳細、起こりやすいトラブルと対処法、加工時の注意点まで初心者にもわかりやすく解説します。
ステンレス板金とは?
ステンレス板金には複数の種類があり、それぞれ異なる特性を持っています。まず基本的な定義と主な使用用途について詳しく見ていきましょう。
定義
ステンレス板金とは、鉄にクロムやニッケルなどの合金元素を添加して作られた、耐食性に優れた板状の金属材料です。英語の「さびない」という意味から名付けられたステンレス鋼を、板状に加工した素材を指します。
表面を覆う不動態皮膜によってさびを防いでおり、酸性やアルカリ性の環境でも高い耐食性を発揮します。また、100%リサイクルが可能な環境に優しい材料でもあります。
主な使用用途
ステンレス板金は、その優れた特性から多岐にわたる分野で活用されています。
分野 | 具体的な用途 | 重視される特性 |
医療機器 | 手術器具、医療装置の筐体 | 清潔性・耐久性 |
食品機械 | 調理器具、食品加工装置、厨房設備 | 耐水性・耐熱性・衛生性 |
建築分野 | 外装材、内装材、手すり、エレベーター内装 | 耐久性・美観 |
自動車 | 排気システム、装飾部品 | 耐食性・強度 |
産業分野 | 化学プラント設備、原子力発電所部品 | 高い信頼性・耐食性 |
このように、ステンレス板金は各分野で求められる特性に応じて適切な種類が選択され、私たちの生活を支える重要な役割を果たしているのです。
ステンレス板金の種類は何がある?
ステンレス板金は、含有される合金元素の違いによって大きく3つの系統に分類されます。
- オーステナイト系:クロムとニッケルを含有、最も一般的
- マルテンサイト系:硬度と強度が高く、工具や刃物に使用
- フェライト系:ニッケルを含まず、家庭用品に多用
それぞれの特徴を理解することが適切な加工を行う上で重要です。
オーステナイト系ステンレス
オーステナイト系ステンレスは、クロムとニッケルを含有する代表的なステンレスで、以下の種類があります。
種類 | 特徴 | 主な用途 |
SUS304 | 最も一般的、優れた耐食性 | 一般的な板金加工、医療機器 |
SUS316 | 耐食性がより高い | 海洋環境、化学装置 |
SUS301L | 高強度 | 自動車部品 |
SUS310S | 耐熱性に優れる | 高温環境部品 |
耐食性と耐熱性に優れており、加工性も良好なため、もっとも広く使用されているステンレスです。硬度は比較的低いものの、熱処理によって高い硬度を実現できます。
マルテンサイト系ステンレス
マルテンサイト系ステンレスは、硬度と強度が高く、磁性を持つステンレスです。SUS420やSUS440などが代表的で、クロムの含有量が比較的少ないため、耐食性は他の系統に比べて劣ります。
しかし、優れた耐摩耗性と高い硬度を活かして、ベアリングや刃物、工具などの用途に使用されています。加工には特別な配慮が求められ、熱処理による硬化特性を理解した加工技術が必要です。
フェライト系ステンレス
フェライト系ステンレスは、基本的にニッケルを含まず、クロムのみを含有するステンレスです。SUS430が代表的で、オーステナイト系よりも硬度と耐熱性が高く、磁性を持っています。
溶接性は良好ですが、耐食性はオーステナイト系に比べてやや劣ります。しかし、家庭用品などの身近な製品に多く使用されており、コストパフォーマンスに優れた材料として評価されています。
ステンレス板金の加工方法とは?
ステンレス板金の加工には、切断・抜き加工、曲げ加工、穴あけ加工、溶接加工、仕上げ加工の5つの主要な方法があります。それぞれの加工方法には特有の技術と注意点があり、製品の要求仕様に応じて適切な手法を選択することが重要です。
切断・抜き加工
切断・抜き加工は、ステンレス板金を所定の形状と寸法に加工する基本的な工程です。以下の加工方法があります。
加工方法 | 特徴 | 適用場面 |
シャーリング | 上下の刃で挟み込み切断 | 直線的な切断 |
タレットパンチ | 所定位置に打ち抜き | 特定形状の抜き加工 |
レーザー切断 | 光エネルギーで切断 | 高精度・複雑形状 |
プラズマ切断 | 高温プラズマで切断 | 厚板の切断 |
ウォータージェット | 高圧水流で切断 | 熱影響なし |
近年では、レーザによる切断が主流となっており、曲線などの複雑な形状でもパンチ金型の制約を受けずに高速で高精度な加工が可能になりました。
レーザー加工
レーザー加工では、レーザーの光エネルギーを利用してステンレス板金の切断を行います。歪みの少ない切断面に仕上げられるため、サイズの小さい製品や少量生産に適しています。
高精度で細かい切断が可能で、複雑な形状にも対応できる柔軟性がメリットです。しかし、レーザー加工を施した製品にはわずかなピアス穴ができるデメリットがあります。
エンボス加工
エンボス加工は、ステンレス板金の表面に凹凸を出すことで素材の強度を高める効果が期待できる加工方法です。表面に凹凸パターンを形成することで、摩擦抵抗が小さくなります。
静電気によるフィルムや紙、食品や錠剤、粉などの貼り付きを抑制することが可能です。初めからエンボス加工されたエンボス材も市販されており、用途に応じて選択できます。
曲げ加工
曲げ加工は、ステンレス板金を所定の角度や形状に曲げる重要な工程です。ステンレス特有の性質により、他の素材と比べて工夫が必要になります。
曲げ加工の主な種類
- V曲げ:V字型の金型で直角に曲げる
- L曲げ:端部を直角に曲げる
- U曲げ:U字型に成形する
- Z曲げ:Z字型に複数回曲げる
- R曲げ:円弧状に曲げる
- O曲げ:円筒状に成形する
ステンレスに力を加えると、若干元の形状に戻るスプリングバックという現象が強く現れるため、曲げ金型の押し込み量を調整し、加工圧力を高めに設定する必要があります。
型曲げ加工
型曲げ加工では、プレス機械を用いてステンレス板金を上下の金型で挟み、圧力をかけて加工を行います。V曲げ、L曲げ、U曲げ、Z曲げ、R曲げなど、金型の形状に応じてさまざまな曲げ形状を実現できます。
特に量産品では品質の安定性が求められるため、型曲げ加工は非常に有効です。角度のずれを抑制できることから、均一で高精度な製品の製造が可能になります。なお、金型の精度は仕上がりに直接影響するため、高精度な金型の製作と適切なメンテナンスが不可欠です。
成形加工
成形加工は、主に以下の通りです。
- フランジ成形
- バーリング加工、
- カーリング加工
フランジ成形では、ステンレス板金の端部を直角に曲げて突き出しを作ります。
バーリング加工では、板金に縁の付いた穴を作る加工を行い、カーリング加工では端部を円筒状に巻き込む加工を施します。これらの成形加工により、機能性と強度を同時に向上させることが可能です。
穴あけ加工
穴あけ加工では、ステンレス板金に必要な穴を正確に開ける作業を行います。ドリルを使用した加工や、ボール盤での加工、レーザーによる穴あけ、パンチによる打ち抜きなどの方法があります。
ステンレスは数ある金属の中でも穴あけが難しい素材で、耐食性に優れている一方で強度があるため、適切な工具を選定する必要があります。熱伝導が少ないので、加工すると熱が材料内部にこもりやすい点も特徴です。
溶接加工
溶接加工では、ステンレス板金同士を溶かして接合させます。主にTIG溶接とレーザー溶接が使用され、それぞれ異なる特徴と適用範囲を持っています。
TIG溶接
TIG溶接では、スパッタと呼ばれる溶接時に飛び散って固まる金属の粒が抑えられるため、溶接部を目視確認しながら正確に作業ができるメリットがあります。高品質な仕上がりが期待できる溶接方法です。
シールドガスで溶接部を覆い、酸化から保護しながら溶接するため、風の強い場所ではシールド性に影響が出る可能性があります。薄板の溶接にも対応でき、1ミリメートル以上の薄板を対象に加工が可能です。
レーザー溶接
レーザー溶接は、ロボットアームの先端にレーザー照射ヘッドが取り付けられ、ティーチングした動きと同時にレーザーを照射して溶接します。精密板金加工では、ファイバーレーザーやYAGレーザーが使われます。
熱の影響を抑制でき、短期間で習熟できるロボット付きのレーザー溶接機を使用する加工会社も増えてきました。ロボットの代わりに人がレーザーヘッドを動かして溶接するハンディタイプのレーザー溶接機もあります。
仕上げ加工
仕上げ加工は、ステンレス板金の表面を美しく整える重要な工程です。ステンレスならではのなめらかな表面に仕上げるために必要で、製品の外観品質を決定する重要な要素です。
溶接の焼けを除去したい場合は、研磨除去のほか、部分的に電解研磨で除去する方法があります。熟練した技能が求められる工程で、仕上がりの品質が製品価値に直結します。
研磨加工
研磨加工では、グラインダーでの研磨や、研磨剤を塗布して円盤工具の高速回転により表面仕上げを行うバフ研磨で鏡面仕上げが行われます。表面の傷や不純物を除去し、美しい外観を実現可能です。
バフ研磨は一般的に多く使われている方法で、研磨剤を塗布したバフにステンレス板金を押し当てて磨き上げます。高い光沢を出せるため、製品の外観をよくすることができます。
鏡面加工
鏡面加工では、電解研磨が特に効果的で、電解液に素材を浸して、ごくわずかに表面を溶かすことで鏡面に仕上げる方法です。残留物を残さずに材料表面の凹凸を平滑化でき、光沢による高級感を出せます。
表面を溶解することで酸化皮膜を除去し、平滑になることで耐食性が向上します。清潔性が要求される用途には特に有効な処理方法です。
ステンレス板金の加工時に起こりうるトラブルと対処法
ステンレス板金の加工では、以下のようなトラブルが発生する可能性があります。
- 歪み:熱による変形や寸法変化
- 割れ:溶接時の高温割れや低温割れ
- さび:もらい錆や酸化被膜の形成
これらのトラブルの原因を理解し、適切な対処法を講じることで、高品質な製品を安定して製造できます。
歪み
ステンレス板金に溶接すると、高温による歪みが生じるケースがあります。高温にさらされた金属は膨張する特性がありますが、自然冷却で縮小されます。しかし、製品の形状や板厚、溶接長さなどの条件によって、歪みが残る場合がある点に注意です。
対処法
歪みを防止するためには、加工する素材を治具で固定して歪みを抑え込む方法があります。また、歪んだ部分をハンマーで叩きながら修正を行う方法もあります。
設計段階から溶接方法に配慮した板厚にする方法も良い方法の1つです。板厚を1ミリメートル以上にすると、TIG溶接でも熱による変形を防止できます。
割れ
ステンレス板金の溶接割れは、高温割れと低温割れのいずれかに原因があります。高温割れが発生する要因は、凝固割れと液化割れの2つにわけられ、一般的に結晶粒の粒界で起こるケースが多く、割れ面は酸化が激しくなる特性があります。
凝固割れは、溶接した金属が冷却で凝固する際に、収縮応力に耐えきれずに開口してしまう割れのことです。液化割れとは、熱部分の結晶粒界にあるニッケルなどの低融点化合物が局部的に溶解することで生じる割れです。
対処法
溶接割れが発生した場合は、原因の発見と溶接の手順の見直しが必要です。適切な溶接材料の選定と加工条件の管理により、割れのリスクを大幅に削減できます。
薄板の場合、材料が変形してしまうため、溶接箇所を剥がして付け直すことが困難です。そのため、事前のテストピースでの確認が重要になります。
さび
ステンレス板金は、鉄と比較すると錆びにくい材料ですが、特定の環境下では錆びる可能性が高まります。主な錆の原因には、ステンレスの表面が他の金属と接触した状態で放置したときに「もらい錆」が起きます。
汚れや水分、塩分、強酸、強アルカリが付着すると、錆びてしまいます。特に傷がついている部分や床と接している部分に錆ができやすいので注意が必要です。
対処法
ステンレスを錆びさせないためには、表面に汚れがない状態を保ち、他の金属と接着しない場所に保管します。定期的な清掃と適切な保管環境の維持が重要です。
酸化被膜を除去するには「電解研磨」を行います。電解研磨では、ステンレスの表面に電解液を浸け、マイナス極とプラス極の設定を行ったステンレスの間に電気を流して、表面を溶解することで酸化皮膜を除去します。
ステンレス板金加工の注意点とは?
ステンレス板金加工を成功させるためには、以下の重要なポイントを押さえる必要があります。
主な注意点
- 熱管理:熱伝導率が低く硬化しやすい特性への対応
- スプリングバック対策:弾性による復元力への配慮
- 材料選定:ステンレスの種類に応じた加工方法の選択
材料特性を深く理解し、適切な加工条件を設定することが不可欠です。
熱伝導率が低いため硬化しやすい
ステンレスは、もともと熱伝導率が低い特徴を持ちます。そのため、切断加工や穴あけ加工を行うとき、生じる熱がステンレス板や工具にこもりやすいです。その結果、ステンレス板の焼けや工具の摩耗または損傷などの問題を引き起こす可能性があります。
効率よく加工をするためには、使用する工具や加工条件に留意し、適切なものを選ぶ必要があります。冷却液の使用や加工速度の調整などの対策が重要です。
スプリングバックに注意する
ステンレス板金加工では、スプリングバックにも注意しなければいけません。スプリングバックとは、曲げ加工などを行うとき、弾性と呼ばれる性質により、元に戻ろうとする現象のことです。
ステンレス板においては、他の金属と比較してもスプリングバックが大きいです。そのため、ステンレス板金加工においては、このスプリングバックを考慮したうえで行う必要があります。
曲げ角度を設定する際は、スプリングバック量を見越して、あらかじめ大きめの角度で加工するなどの補正が必要です。経験と技術に基づいた適切な補正値の設定が重要です。
板金の種類ごとに加工方法を選ぶ必要がある
ステンレス板はオーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系と種類が分けられます。さらに、それぞれの中でもSUS304、SUS430、SUS420といったように、種類は細分化されます。
それぞれの種類は、硬度や耐食性、耐熱性や磁性、溶接性など、持つ特徴が異なります。そのため、それぞれに合った方法で加工を行う必要があり、またこれには知識や経験が必要です。
ステンレス板金加工なら「タキオンワタナベ」にお問い合わせください
ステンレス板金加工は、その優れた特性を活かしつつ、特有の難しさを克服する高度な技術が求められる分野です。適切な加工方法の選択と丁寧な工程管理により、高品質な製品を製造することができます。
株式会社タキオンワタナベでは、豊富な経験と高い技術力により、お客様のニーズに応える高品質なステンレス板金加工サービスを提供しています。試作サービスから小中ロット量産まで、幅広い要求にお応えできる体制を整えています。
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コラム監修者

- 代表取締役社長
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高等学校卒業程度認定試験合格後、関西外国語大学で英米語を専攻し、ニューヨーク州立大学経済学部にも在籍。
その後、同志社大学大学院ビジネス研究科で経営学を深め、現在は京都大学大学院法学研究科で法学を学ぶ。
プライム上場企業で培ったマネジメント力を活かし、経営難だった家業を再建。
一気通貫の機械サービス業の体制構築と品質・納期・コストを革新し、読者のものづくり課題に経営視点で応える。
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